[記者発表][平成11年度4月]−[16日16時記者発表] 原子力安全対策課
大飯発電所2号機の定期検査状況について(制御棒落下事象の原因と対策)(11−8)

 このことについて、関西電力株式会社から下記のとおり連絡を受けた。

 大飯発電所2号機(加圧水型軽水炉;定格出力117.5万kW)は、平成10年8月29日から第14回定期検査中であるが、調整運転中の1月29日14時22分、制御棒(全53本)のうち1本が引き抜き操作時に落下する事象が発生した。原因調査のため同日20時00分発電を停止し、原子炉停止操作を行っていたところ、他の制御棒1本にも動作不良があったため、20時42分原子炉を手動トリップした。
 本事象に伴う周辺環境への放射能の影響はない。
 原因調査として、制御棒駆動装置の動作確認等を実施したところ、不良が認められた2本とは別の制御棒4本でも動作不良(落下やスリップ現象)が認められたが、駆動装置の電気系設備や据付状態等には異常は認められなかった。このため詳細調査として、動作不良が認められた制御棒および正常なものを含む6本の制御棒駆動装置について、駆動軸外筒部(ハウジング)を切断し、駆動機構の分解調査を行うこととした。また、工場で実機モデルを用いた動作試験および装置構成部品の品質確認等の調査を行うこととした。

 今回発生した制御棒の動作不良は、制御棒駆動機構の可動つかみ部において制御棒駆動軸の引き上げ動作に遅れ等の異常が発生し、その後の固定つかみ部による制御棒駆動軸の保持が正規の位置(駆動軸の谷部)からズレたため、落下やスリップ等の動作不良が発生したものと推定された。[平成11年1月29日、2月17日、3月11日 記者発表済]

 その後実施した詳細な原因調査結果とそれに基づく原因および対策は以下のとおりである。

1.

原因調査結果

(1) 制御棒駆動機構の分解調査結果

内部構成品(ラッチアセンブリ)の可動つかみ(ラッチ)支持管下部を外観観察した結果、正常動作したものについては、工場において高温・高圧の実機環境下での試験を行っていたため黒色であったが、動作不良があったものは茶褐色であった。

動作不良があった内部構成品の摺動部には、正常なものに比べて明瞭な摺動痕があり、付着物(マグネタイト)も多く確認された。

上げ磁極下部にある金属板(はさみ板)等に腐食が認められ、特に動作不良があったものに顕著にみられたことから、付着物は、このはさみ板等の腐食により生成したものと推定された。

(2)

今回の定期検査時における原子炉容器上蓋の保管状況

大飯2号機は、今回の定期検査で原子炉容器上蓋取り替え工事を行っている。上蓋の保管状況を調査した結果、上蓋は工場より搬入後、原子炉容器本体に設置されたが、その後に発生した余熱除去ポンプ出口ドレン配管漏えい対策工事のため、一旦格納容器内仮置き場所へ移動し保管した。その後、再度原子炉容器本体に設置し原子炉起動準備に入った。
 他発電所での上蓋取り替え工事では、原子炉容器本体に上蓋を設置してから約7日後に原子炉容器全体を満水として原子炉起動準備に入っているが、大飯2号機では上記のことから、この期間が48日間と長期に及んでいた。

原子炉容器上蓋を原子炉容器本体に設置すると、上蓋および制御棒駆動装置内は一次冷却材の湿潤雰囲気にさらされることとなるが、今回の大飯2号機ではこの期間が長期にわたっていたことが判明した。

(3)

工場における各種試験結果

制御棒駆動機構のはさみ板部での腐食について、湿潤雰囲気での実機保管状態を模擬した材料試験を行ったところ、約2週間で腐食が発生することが確認された。なお、はさみ板の表面に保護被膜があるものには腐食は認められなかった。

案内管と可動ラッチ支持管との摺動部にマグネタイトを混入させた状態を模擬した試験を行ったところ、摺動抵抗が増加することが確認された。

可動ラッチ支持管の下部は固定つかみ磁極上部の溝部(ダッシュポット部)に入っていることから、この構造を模擬し、マグネタイトを混入させた状態で動作試験を行なったところ、動作時間に遅れが生じた。これは付着したマグネタイトによりダッシュポット部に入り込む水の流路が狭くなり、水の流入が妨げられたものと推定された。

本事象の再現性を確認するため、実機の湿潤状態での長期保管状態を模擬した後、制御棒駆動装置の動作試験を実施したところ、制御棒の引き上げ動作に遅れがみられるとともに、内部構成品の分解調査で、実機と同様、はさみ板部での腐食や摺動部および隙間部にマグネタイトが認められた。


2.

原因

 大飯2号機では、今定期検査で原子炉容器上蓋の取り替え工事を行ったが、上蓋を原子炉容器本体に設置した後、余熱除去系配管の漏えい対策工事のため原子炉起動準備に至るまでの期間が長期にわたっていた。この間、上蓋内の制御棒駆動装置内は湿潤雰囲気下におかれていたため、駆動装置内部構成品のはさみ板部等で腐食が発生した。その後、原子炉起動準備として制御棒動作試験を実施した際、可動つかみ磁極がはさみ板部に当たり、腐食生成物が内部構成品内に拡散し、駆動機構の摺動部や隙間部に入り込んだ。
 その結果、制御棒駆動機構の可動磁極の上げ動作に対して、摺動抵抗や水の流路抵抗が増加することとなり、制御棒引き上げ動作に遅れが生じ、動作不良に至ったものと推定された。


3.

対策

 原子炉容器上蓋に取り付けられている制御棒駆動装置全数(53本)について、駆動軸外筒部を切断し、内部構成品を取り替えることとした。なお、今回の組み込む内部構成品については、腐食予防として、あらかじめ保護被膜を形成させたものを使用することとした。


4.

その他
 対策を実施した後、7月中旬頃に調整運転を再開する予定である。

(通商産業省によるINESの暫定評価尺度)

基準1 基準2 基準3 評価レベル
0+ 0+


制御棒位置図
制御棒駆動機構概念図
制御棒駆動装置動作不良の推定メカニズム