[記者発表][平成11年度4月]−[23日16時記者発表] 原子力安全対策課
大飯発電所1号機の定期検査状況について(燃料集合体支持格子の損傷の原因と対策)(11−12)

 このことについて、関西電力株式会社から下記のとおり連絡を受けた。

 大飯発電所1号機(加圧水型軽水炉;定格出力117.5万kW)は、平成11年2月19日から第15回定期検査を実施しているが、燃料集合体の外観検査を実施したところ、3月15日1体(T−39)および3月29日1体(T−04)の計2体、燃料集合体の支持格子の一部に変形が認められた。
 また、変形が認められた2体の燃料集合体に隣接する燃料集合体の外観点検で、変形のあった支持格子に対面する支持格子の一部にこすれ跡が認められたが、その程度は軽微であり燃料集合体の健全性に問題はなかった。
 なお、本事象に伴う環境への放射能の影響はない。[平成11年3月15日、4月1日:記者発表済]

 燃料集合体支持格子の損傷の調査結果と原因および対策については以下のとおりである。

1. 調査結果
(1)

燃料集合体の調査結果

 今回支持格子が変形した2体(T−39、T−04)の燃料集合体はともにA型燃料集合体であり、また、こすれ跡が認められた隣接燃料集合体2体はともにB型燃料集合体であった。
 変形した支持格子(T−39は第6、T−04は第9)は、それぞれ右端の上部(ガイドベーン)が下方向に圧縮された形で、ベーン付け根部が幅約3cm、最大約6mm外側にはみ出ていた。変形したベーンの先端部は燃料棒には接触しておらず、燃料棒表面に傷等の異常は認められなかった。
 隣接燃料集合体の調査では、1体目(T−39の隣接)は変形した支持格子と同位置の第6支持格子に、2体目(T−04の隣接)は第3支持格子に、それぞれ左端部にこすれ跡と思われる光沢部が認められた。また、1体目(T−39)の隣接の第6支持格子の位置が、約9mm上方にズレていた。

(2) 燃料集合体取替作業時の記録調査等

 今定期検査時の燃料集合体取り出し時および前回定期検査時の燃料集合体装荷時の作業記録等について、詳細に調査した結果は以下のとおり。

1体目の燃料集合体(T−39)

 前回定期検査時に当該燃料集合体が原子炉内に装荷されている状態で隣接燃料集合体を装荷する際、原子炉底部にある支持ピン(燃料集合体下部ノズルが挿入される)の頂部位置で、頂部に乗り上げたと思われる荷重変動が発生しクレーンは自動停止した。このため燃料集合体を一旦上昇させ、位置の再確認を行い装荷作業を再開したところ、頂部位置の下方で再度荷重変動が発生したが、当時は下部ノズルが支持ピンに入って若干のこすれ等が生じたためと考えていた。
 なお、原子炉底部近くの位置では、燃料集合体の着底作業を円滑にするため、荷重変動によるクレーンの自動停止は作動させない不感帯を設けていた。

2体目の燃料集合体(T−04)

 今定期検査時において当該燃料集合体を原子炉から取り出す際、隣接燃料集合体の第3支持格子位置で荷重変動が発生し、クレーンは自動停止したが直ぐに荷重変動はなくなった。このため、隣接燃料集合体との干渉は解消されたと考え、引き続きクレーンの上昇作業を行った際、瞬間的に荷重変動が発生したが、その後は特に異常はなかった。
 クレーンの荷重変動による自動停止の制御方式は、前回定期検査前に電気式に変更しており、この方式では、クレーン起動時に通常発生する過大な荷重変動による誤停止を防止する不感帯を設けていた。
(3)

支持格子の設計評価および工場での再現試験

 燃料集合体支持格子同士の形状について、解析および干渉試験の結果、今回変形したA型とB型の支持格子の面同士が僅かに横にずれた状態では、A型の支持格子上部(ガイドベーン:山型)とB型の支持格子下部(ガイドタブの谷部)がかみ合う可能性があり、過大な荷重が加わると今回と同様な支持格子の変形が起こる可能性のあることが確認された。

2.

原因

 今回の支持格子の変形の原因は、燃料集合体の装荷・取出作業時にA型燃料集合体の支持格子上部と隣接するB型燃料集合体の支持格子下部が、クレーン操作時の僅かな揺れ等によりかみ合い、クレーンが自動停止しない状況で作業が継続され、かみ合い部に過大な荷重が加わり、変形が生じたものと推定された。


3.

対策

燃料取替クレーンについては、起動時の荷重変化を小さくするため、クレーンの巻き上げ(下げ)速度が徐々に上昇(下降)するよう制御回路の変更を行うことにより、起動時の不感帯をなくすこととした。なお、原子炉底部付近での不感帯については、前回定期検査時に不感帯領域が小さい電気式の荷重監視装置に取り替えている。

燃料取替作業時において、荷重変動によりクレーンが自動停止した際、その後荷重変動が解消した場合でも、隣接燃料集合体との干渉を確実に回避するため、位置修正を行った後に作業を再開するよう作業手順書に明記することとした。 

A型燃料集合体については、これまでも支持格子の改良に努めてきているが、今回の事例を踏まえ、今回変形した支持格子と同型式の燃料集合体は、念のため支持格子同士のかみ合いが起こらない型式に今後順次取り替えることとした。また、新型の燃料集合体採用にあたっては、設計段階で支持格子同士がかみ合わないことを十分確認することとした。

支持格子に変形が認められた燃料集合体2体については、今後再使用の可否について詳細に検討することとした。また、隣接燃料集合体のうち1体は、取り出し予定燃料であり再使用しないが、他の1体は再使用しても問題ないが、今回は使用しないこととした。 


(通商産業省によるINESの暫定評価尺度)
基準1 基準2 基準3 評価レベル
0− 0−


燃料集合体の支持格子変形状況概要図
燃料集合体の支持格子変形時の取扱状況概要図