[記者発表][平成11年度6月]−[3日11時30分記者発表] 原子力安全対策課
美浜発電所3号機の定期検査状況について(A−主蒸気管系統の油圧防振器損傷の原因と対策)(11−31)

 このことについて、関西電力株式会社から下記のとおり連絡を受けた。
 今回の事象については、事象発生後、県への通報連絡が直ちに行われず、翌日の問い合わせに対して初めて報告がなされたこと、さらに、運転員相互での指示・確認の不徹底により発生したものと判明したことから、県としては、本日、関西電力株式会社若狭支社長に対し、通報連絡の徹底とヒューマンエラーの再発防止について強く申し入れた。(別紙参照)

 美浜発電所3号機(加圧水型軽水炉;定格出力82.6万kW)は、平成11年4月21日から第17回定期検査を実施中の5月26日10時20分頃、原子炉冷却系統耐圧漏えい試験後の主蒸気管および蒸気発生器内の水抜き作業中に、主蒸気配管内で水撃作用が発生し、A−主蒸気管系に設置されている油圧防振器9本に損傷等が認められた。
 なお、この事象による環境への放射能の影響はない。[平成11年5月27日 記者発表済]

 点検の結果、損傷した油圧防振器9本は連結ネジ部で破損しているとともに、2ヶ所の配管振れ回り防止用支持構造物で緩衝材の一部に変形が認められた。
 主蒸気管に設置された圧力計の記録から、A−主蒸気管では水抜き開始後約30分間にわたって水撃作用による圧力変動が記録されていた。C−主蒸気配管の圧力計でも、小さな水撃作用が発生していたことが確認されたが、油圧防振器等の損傷は認められなかった。
 水抜き作業時の運転操作について調査した結果、水抜き開始後行うべき窒素注入操作が実施されていなかったことが判明した。
これらの調査から、水撃作用が発生した原因は以下のとおり。

今回実施した主蒸気管内の水抜き作業時には、蒸気発生器側の温度が高く、主蒸気管内の水との間で温度差が生じていることから、水抜きに伴う圧力低下に併せて、同配管内に窒素を加圧注入し水撃作用の発生を防止することとしていた。
しかし、水抜き作業を開始した後、配管内への窒素注入が行われなかったため、主蒸気配管内の水平部で水撃作用(配管内での瞬時的な圧力変動)が発生したものと推定された。
この圧力変動が配管内を伝播し、配管系の曲がり部で衝突し瞬時的に大きな力が配管系に働き、これにより油圧防振器が破損したものと推定された。
配管振れ廻り防止用支持構造物での緩衝材の変形は、油圧防振器が破損した後の水撃作用により、配管系が瞬時的に移動し、支持構造物本体と接触 したためと推定された。
窒素注入が行われなかった原因は、中央制御室と現場運転員との間で、無線機の不調により、相互の指示・確認が確実になされなかったためと判明した。

 対策として、損傷の認められた油圧防振器9本および変形の認められた緩衝材は新品と取り替えることとした。
 また、運転操作にあたっては、操作指示者と操作者が相互に確認し合うという運転操作の基本動作を再徹底するとともに、主蒸気管での水撃作用発生を防止させるため、水抜き時の操作手順書について、具体的な操作手順や注意事項を明記するなど手順書の充実を図ることとしている。
 なお、今回発生した水撃作用による主蒸気配管系の健全性調査として、配管溶接部や支持構造物、小口径取り付け配管部等について、外観検査や非破壊検査等により異常のないことを確認している。

(注)水撃作用 主蒸気管内は水抜きにより内圧が低下するが、蒸気発生器内では高温水が飽和蒸気となっており、主蒸気管の水平部で蒸気泡となって配管内に侵入し、管内の低温水で急激に冷却され凝縮することにより、主蒸気配管内で瞬時的に水撃作用(圧力変化)が発生したものと推定される。 

(通商産業省によるINESの暫定評価尺度)
基準1 基準2 基準3 評価レベル
評価対象外 評価対象外


概略系統図
油圧防振器等の損傷状況
美浜発電所3号機A−主蒸気管点検結果概要図
水撃作用の発生原理



<別紙>

原第237号
平成11年6月3日
関西電力株式会社若狭支社
支社長 岸田 哲二 殿
福井県県民生活部長
牧野 百男

原子力発電所の通報連絡と安全確保の徹底について

 関西電力株式会社美浜発電所3号機において、定期検査中の5月26日、主蒸気配管内の水抜き作業時に、配管内で水撃作用が発生し、複数の油圧防振器が損傷する事象が発生した。
 この事象発生後、直ちに事実を確認していたにもかかわらず、県への通報は行われず、翌日の問い合わせにより初めて事実が報告された。また、水撃作用が発生した原因は、水抜き作業開始後、水撃防止のため行うべき窒素ガスの注入操作が、運転員相互での連絡・確認行為の不徹底により、実施されなかったためと判明した。

 県および立地市町は、施設設置者と安全協定を締結し、原子力発電所の安全確保と県民の信頼確保に努めているところである。安全協定は施設設置者からの通報連絡が基本であり、これまでも機会ある毎に迅速で正確な通報連絡の徹底とその重要性について強く申し入れてきたところであるが、その趣旨が十分徹底されない結果となり、誠に遺憾である。
 さらにヒューマンエラーの発生防止についても、他発電所の事例を教訓として、積極的な水平展開や発生防止活動の強化に努めるよう再三要請してきたところである。しかし、今回の事例を含め、最近、定期検査中の作業確認等、基本動作の不徹底が要因となった事象が続いており、発生防止にさらに徹底して取り組む必要がある。

 今回の事例を社内全体の問題として真摯に受け止め、原子力発電所に対する県民の信頼回復を図るため、下記の項目について、早急に徹底した調査、検討を行い、改善策について報告するよう強く要請する。


1. 安全協定の主旨を十分踏まえ、通報連絡の徹底について、個々の社員意識の改善を図るとともに、所外および地元自治体への迅速かつ積極的な通報連絡ができるよう、組織体制等について必要な改善を図ること。

2.

定期検査時の作業や運転操作時等におけるヒューマンエラー発生防止の観点から、確認行為等の基本動作の徹底を図るとともに、関連する諸規則等について徹底した再点検を行い、必要な改善を図ること。

3.

原子力発電所に従事する全社員に対し、過去のトラブル事例を教訓として、教育の徹底と技術レベルの向上について必要な改善を図ること。
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