[記者発表][平成11年度10月]−[7日14時記者発表] 原子力安全対策課
敦賀発電所2号機の1次冷却水の漏えいについて(原因調査状況)(11−102)

 このことについて、資源エネルギー庁、日本原子力発電株式会社および関西電力株式会社から下記のとおり連絡を受けた。

 敦賀発電所2号機(加圧水型軽水炉;定格出力116.0万kW)は、7月12日に発生した再生熱交換器連絡配管からの1次冷却水漏えいの原因調査を実施している。<平成11年7月12日、13日、16日、19日、22日、8月2日、12日、13日、30日記者発表済>

1. 実機模擬試験および解析評価結果
 損傷原因として、再生熱交換器本体胴内部の構造およびバイパス流量の影響により、バイパス流のフローパターンが周期的に変動することなどにより、高サイクル熱疲労が発生したと推定されたことから、このメカニズムの確証のため、流動模擬試験および解析評価を実施した。
 その結果、敦賀2号機の再生熱交換器では、バイパス流のフローパターンが周期的(約500秒)に変動する現象が発生し、それにより主流出口部でのバイパス流との混合が周期的に変動し、これが連絡配管へも影響し、この変動により発生する熱応力と、高温水(バイパス流)と低温水(主流)の混合に伴う温度ゆらぎ(数秒〜20秒周期)による応力が重畳することにより、連絡配管および胴部で高サイクル熱疲労割れが発生したと推定された。
 高浜3、4号機やそれ以外の内筒型再生熱交換器では、フローパターンが周期的に変動する現象が発生せず、熱疲労割れに至らないと推定された。

2.

再発防止策骨子(案)
 国および日本原子力発電(株)では、今回の損傷原因を踏まえ、今後、
設計、施工(大きな温度変動が発生しにくい構造への改善等)
保守(き裂の早期発見方法(点検・検査の充実等))
運転管理(漏えい量をより一層低減するための運転管理面の見直し)
被ばく管理(作業性の改善)
検査手法等の高度化(手法、手順等の高度化)
について、具体的な対策を検討していくこととしている。



(別紙)

原因究明調査の概要

1. 敦賀2号機の原因究明調査の概要
 原因究明に関わる調査については、損傷した再生熱交換器中段の抽出側出口連絡配管エルボの破面等の詳細調査を行うとともに、その結果も踏まえ熱交換器内の流動状況把握等のための模擬試験や応力解析等を実施した。その全体概要を以下に述べるが、主な項目は次のとおりである。
a. 破面、断面、硬さ、粗さ等割れについての詳細調査
b. 再生熱交換器の他の連絡配管等に関する調査
c. 再生熱交換器の構造と特徴(損傷推定要因を踏まえた構造上の調査)
d. 流動模擬試験(熱交換器胴及び連絡配管の流動状況を模擬した可視化試験)
e. 熱流動解析(損傷部の応力解析に必要な入力条件の推定)
f. フローパターン変動シミュレーション解析(損傷事象推定のための熱・構造を連成させたシミュレーション解析)
g. 応力解析(損傷に至る応力が当該部に発生し得ることの評価)
(1) 割れの詳細調査
 損傷が確認された連絡配管(エルボ、管台、配管)及び胴の割れについて実施した詳細調査の主な結果は次のとおりである。
連絡配管には軸方向と周方向の割れがあり、大小12の割れが確認された。
割れは内面の複数起点から発生し、成長した痕跡が認められた。特に、複数の起点から割れが成長し、連結した痕跡が認められた。
破面には組織状模様、ストライエーション状模様及びビーチマークが観察された。ビーチマークの間隔は割れ深さに伴い、徐々に狭くなっていた。
胴部の割れは亀甲状の割れであった。
材料の異常や全面腐食等は認められなかった。

 以上の結果を総合し、連絡配管及び胴の割れはいずれも熱疲労割れによるものであると推定した。

(2) 他の連絡配管等に関する調査
 再生熱交換器中段胴及び抽出側連絡配管の損傷を踏まえ、上下段再生熱交換器の他の連絡配管及び上下段再生熱交換器胴本体について非破壊試験を実施した結果、異常は認められなかった。また伝熱管の耐圧漏えい検査を実施した結果、異常は認められなかった。さらに熱交換器下段のスライド脚側について、加温、ジャッキにより移動の有無を確認した結果、スライドすることを確認した。
(3) 再生熱交換器の構造と特徴
 損傷原因として熱疲労が推定されたことから敦賀発電所2号機再生熱交換器の構造上の特徴について調査した。その結果、熱交換器胴には熱交換性能を改善するために内筒が設置されており、内筒内部を流れて伝熱管と熱交換し冷却される主流と、内筒と胴の隙間を流れる高温のバイパス流が存在し出口で混合される構造であった。
 またバイパス流量は、内筒支持リングと胴との隙間の実測値が約3mmであり、これを考慮した圧力損失計算及び運転パラメータに基づく伝熱計算から約40%と評価された。(設計目標:隙間約2mm、バイパス流量約23%)
   なお、胴切断後の内面点検で胴内面の上部に第1支持リングの接触跡が、胴内面の下部に第4支持リングの接触跡が認められた。     
(4) 流動模擬試験(予備試験)
 熱交換器で冷却された主流と高温のバイパス流の混合を模擬する熱流動模擬試験(予備試験)を実施した。
 その結果、バイパス流は低流速(約7cm/s)であるため、内筒と胴の隙間を流れる間に内筒との熱交換により胴下部に低温領域が生成すること、及び支持リングと胴との隙間を上下に偏心させると、低温領域が生成・消滅する現象が発生するとともに低温の主流と高温のバイパス流の混合するフローパターンに変化のあることを確認した。この変化は管台入口の温度分布に変化を与え、下流の連絡配管の流況に影響を与えることを確認した。
(5) 損傷メカニズムの推定
 以上の結果から、胴下部でのバイパス流低温領域の生成または消滅が熱交換器胴に変形を与え、それにより隙間が変動し、フローパターンが変動することによって温度分布が変化するという現象が繰り返し発生し、当該損傷部に熱疲労割れが発生した可能性があると考え、その後の試験及び解析を実施した。 
(6) 流動模擬試験(本試験)
 支持リングの位置及びバイパス流量が流況に与える影響を試験で確認した。その結果は次のとおりであった。
第2支持リングが上偏心の状態にあるか、下偏心の状態にあるかで第1支持リングと第2支持リング間の主流とバイパス流の混合する流況は大きく変化するとともに、第2支持リングと第3支持リング間の胴下部の低温領域が生成・消滅した。下偏心の状態では主流とバイパス流が内筒外側を対称的に流れ(フローパターン1)、上偏心の状態では支持リングのわずかな左右の偏心の影響から内筒外側を非対称に流れた(フローパターン2)。この混合状況は管台入口部にまで及んでおり、管台入口回りの温度分布は上偏心と下偏心で、約90°位相の違いが生じた。             
バイパス流量が大きくなると、上下の偏心で低温領域の生成と消滅が顕著になり、管台入口の温度分布の位相差も大きく変化した。
高温のバイパス流と低温の主流が混合する領域(胴の第1、第2支持リング間及び連絡配管エルボ)で比較的短周期の温度ゆらぎが確認された。
(7) 熱流動解析
 フローパターン1及び2の流動状況が繰返す場合、それによる応力解析に必要な各部位の温度分布を求めるため、第2支持リングを上下に偏心させた条件で、胴及び連絡配管エルボ部の熱流動解析を実施した。モデル範囲はバイパス流と主流の混合部位を模擬した第2支持リングから胴鏡部及び出口連絡配管とし、これに流動模擬試験で得られた管台入口温度分布を入力した。
 その結果、支持リングの上下偏心で流動模擬試験と同様に2種類のフローパターンが胴部に発生し、連絡配管エルボ部入口の周方向温度分布には約90°位相が異なる温度パターンが発生した。                            
(8) フローパターン変動シミュレーション
 以上の試験及び解析結果を踏まえ、バイパス流に低温領域が生成・消滅するとともに胴が熱変形することで隙間が変化し、フローパターンが周期的に変動する現象が発生するかを確認するため、コンピュータによるシミュレーションを実施した。シミュレーションの結果は次のとおりである。
バイパス流量が40%の場合、胴と第2支持リングの隙間が周期的に変動し、フローパターン1と2が交互に繰返される現象が発生し得る。また、その変動周期は約500秒程度の比較的長い周期である。
バイパス流量割合が30%以下ではフローパターン変動現象は発生しないと考えられる。
(9) 変動応力解析
 フローパターン1と2の温度分布差による長周期変動応力及び流動模擬試験で得られた短周期の温度ゆらぎによる短周期変動応力を構造解析モデルに温度条件を入力することで推定した。その結果、長周期と短周期の温度変動による応力は連絡配管エルボ部で約118MPa(約12kgf/mm2)、胴部で約167MPa(約17kgf/mm2)等であった。     
(10) 割れ発生・進展評価
 損傷部位の疲労強度を平均応力を考慮して推定するとともに、上記変動応力と比較し、割れの発生の可能性を評価した。その結果、疲労強度は連絡配管エルボ部(割れa)で約98MPa(約10kgf/mm2)から約147MPa(約15kgf/mm2)、胴部で約147MPa(約15kgf/mm2)から約167MPa(約17kgf/mm2)となり、損傷部に加わっていたと推定される変動応力と比較すると、割れは発生し得ると評価される。また、割れ発生寿命は各損傷部で約105回以上であると推定された。
 変動応力解析の結果を用いて割れ進展解析を実施した結果、各損傷部で割れの進展寿命は約105回のオーダであった。
 また、フローパターン変動シミュレーションで得られた変動周期約500秒程度と実機運転時間(約9.5万時間)を考慮して算出した変動回数は105回のオーダであり、割れの発生・進展から評価した寿命と矛盾しない結果となった。
(11) まとめ
 以上の調査結果は、
熱交換器胴本体におけるバイパス流の低温領域の生成・消滅が熱交換器胴に変形を与え、
それにより内筒支持リングと胴の隙間が変動し、
フローパターンが変動することにより温度分布が変化するという現象が周期的に発生し、
高温水と低温水の合流による短周期の温度ゆらぎと重畳することで、
連絡配管及び胴本体に、疲労強度を上回る応力が繰り返し加わり、熱疲労割れが生じた
 とする推定原因を裏付けるものであった。

2.

他プラントにおける類似現象発生の可能性の有無
 高浜3/4号機、川内2号機、泊1/2号機は、敦賀2号機と同様に内筒付き再生熱交換器を有していることから、これらの再生熱交換器についても、流動模擬試験、シミュレーション解析及び変動応力解析を実施することにより、再生熱交換器本体及び連絡配管における類似損傷発生の可能性について検討を行った。
 流動模擬試験、シミュレーション解析、実機計測等の結果は以下のとおり。
(1) 流動模擬試験の結果、第1、第2支持リング間の流況は、第2支持リング位置の上下方向、左右方向変化にかかわらず安定しておりほとんど変化しない。このため、胴、連絡配管部での温度分布変動はほとんどない。
(2) シミュレーション解析からは、隙間の周期的な変動は発生せず、フローパターンの周期的な変動現象も発生しない結果となった。
 (1)、(2)により、熱応力評価として短周期の温度ゆらぎによる応力評価を実施した結果、いずれのプラントも応力振幅は許容される疲労強度を下回った。
(3) 代表プラントにおける実機胴部変位計測の結果、周期的な変動現象は発生しておらず、また既に数プラントにおいて当該部の超音波探傷試験を実施し、有意な指示は認められなかった。

3.

再発防止策骨子(案)
(1)

設計・施工[大きな温度変動が発生しにくい構造への改善等]

a. 高サイクル熱疲労割れを防止する設計の採用(事業者)
b.

工事計画認可等における設計・施工の確認(国)

c.

高サイクル熱疲労に関する統一的基準の検討(国、事業者)

(2) 保守[き裂の早期発見方法(点検・検査の充実等)]
a.

内筒構造を有するPWR再生熱交換器に対する検査の充実(事業者)

b.

高サイクル熱疲労割れを考慮した検査の充実(事業者)

c.

念のため、第3種配管に関する検査の充実(事業者)

d.

定期検査等における確認(国)

(3) 運転管理[漏えい量をより一層低減するための運転管理面の見直し]
a. 漏えい箇所の早期特定および漏えい量の把握の円滑化(事業者)
b. 一次冷却材漏えい時における減圧・冷却のための操作時間の短縮(事業者)
(4) 被ばく管理[作業性の改善]
a. 除染の機械化等(事業者)
(5) 検査手法等の高度化[手法、手順等の高度化]
a. UT検査の自動化、マニュアル化等(国、事業者)