[記者発表][平成9年度1月]−[20日11時記者発表] 原子力安全対策課
敦賀発電所1号機の制御棒動作不良の原因と対策について(9−100)

 このことについて、日本原子力発電株式会社から下記のとおり連絡を受けた。

 敦賀発電所1号機(沸騰水型軽水炉;定格出力35.7万kW)は、定格出力運転中の平成9年10月23日、制御棒駆動系の定期試験において、制御棒73体のうちの1体(22−23)が動作しないことが確認されたことから、点検調査のため、10月25日6時00分に原子炉手動停止した。なお、この事象による環境への放射能の影響はなかった。[平成9年10月24日発表済]

<原因調査結果>
(1) 発電所での調査結果[11月7日、18日、12月3日発表済、一部追加]
a. 当該制御棒(22−23)の外観点検の結果、制御棒ブレード4枚のうち1枚で膨らみ状の変形(3箇所)が発生し、燃料集合体と干渉していたことが確認された。
また、変形が生じていたブレード表面の上部に計35箇所の横割れ、縦割れが認められ、部分的に小さな膨れが認められた。なお、ブレード表面にはその他点状、線状模様が確認されたが、詳細な点検の結果、これらは製造過程の表面仕上げ等で発生した微小な傷と考えられた。
b. また、原子炉内に装荷していた同型の制御棒8体の外観点検の結果、うち1体(30−15)のブレード表面に24箇所の微小な割れが確認された。
なお、過去に使用した類似制御棒10体についても外観点検したが、変形や割れ等は認められなかった。
c. 制御棒と干渉していた燃料集合体2体について外観観察した結果、それぞれチャンネルボックス表面に制御棒との接触痕および微小な凹みが認められたが、燃料シッピング検査(燃料の漏えい検査)の結果、燃料集合体の健全性には問題のないことが確認された。
(2) 当該制御棒の変形・割れ部の詳細調査結果
 干渉していた制御棒(22−23)の膨らみ状の変形部や割れ部等を切断、照射後試験施設に搬出し、詳細調査を実施した結果は以下のとおり。
a. 制御棒ブレード上部の外側端部の横割れ
 制御棒上端部から約960mmのブレード外側端部で横割れが認められ、その割れは、端部の溶接部から曲げ加工(かしめ)部にかけて発生しており、外表面から内面まで貫通していた。また破面観察の結果、割れは粒界割れの様相を呈していた。
b. 制御棒ブレード上部(Hf−B4C領域)の割れ
 制御棒ブレード上部(Hf−B4C領域)の表面に認められた割れは、外表面から内面まで貫通しており、破面は粒界割れであった。また、ブレード内のハフニウム(Hf)はボロンカーバイト(B4C)側で体積膨張し、ブレード内面を押し拡げていた。
c. 膨らみ状の変形
 膨らみ状の変形部を調査した結果、中性子吸収材充てん孔の間(リガメント部)が破断しており、その破面は、延性割れの様相を呈していた。また、3箇所の変形部のうち最大に膨れていた箇所については、制御棒内側で開口していたが、開口部の破面についても延性割れの様相を呈していた。
 さらに、開口していない2箇所の変形部について、ブレード内部を観察した結果、吸収材充てん孔の入口部でホウ酸とリチウムの化合物が固着しており、充てん孔が閉塞されていることが確認された。
(3) 制御棒ブレードの製造状況調査
 製造過程において、ブレード外側端部の曲げ加工(かしめ)や、吸収材充てん後の端部溶接により生じたブレードの曲がりを矯正加工していることにより、ブレード上端および下端から約600〜1000mmの位置の外側端部に大きな加工歪み(残留応力)が発生する可能性があることが確認された。
(4) 解析・評価結果
 制御棒ブレード内に水が浸入した後、充てん孔が閉塞された場合、ボロンカーバイドの中性子吸収によって発生するヘリウム、水とボロンカーバイドとの反応によって生じる水素等によって、充てん孔内圧が上昇し、リガメント部が破断する可能性があると評価された。

<推定原因>
(1) 割れの発生
 制御棒ブレード上部の外側端部で認められた横割れは、制御棒製造時に局所的に大きな残留応力が生じていたことと、当該部の中性子照射量が高かったことにより発生した照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)と推定され、この割れが最初に発生したものと推定された。
(2) 二次的な割れの発生
 最初の割れの発生により、制御棒ブレード内に炉水が浸入、ハフニウム(Hf)が水とボロンカーバイドの反応により発生した水素を吸収し体積膨張したことにより、ブレード内面が押し拡げられたことと、中性子照射の影響により、ブレード外表面から二次的に応力腐食割れ(IASCC)が発生したものと推定された。
(3) 膨らみ状の変形の発生
 プラント停止時に割れより炉水がブレード内に大量に浸入し、その後、原子炉起動に伴う温度上昇により、ボロンカーバイド領域において、水とボロンカーバイドの反応により生成されたホウ酸とボロンカーバイドの中性子吸収により発生するリチウムの化合物が充てん孔入口に固着し、充てん孔を閉塞した。その状態で、ボロンカーバイドの中性子吸収によって発生するヘリウム、水とボロンカーバイドとの反応によって生じる水素等の発生により、充てん孔内圧が上昇したため、リガメント部が破断、膨らみ状の変形(一部破断)が発生したものと推定された。
 また、制御棒の動作不良の原因は、制御棒で膨らみ状の変形が発生したことにより、制御棒が燃料集合体と干渉したためと判明した。

<対策>
 膨らみ状の変形が発生した制御棒および同型の制御棒8体について、従来型制御棒(タイプ1)の新品と取り替える。なお、今後新型の制御棒を導入する場合には、定期検査時に計画的に健全性を確認するなど品質保証活動を強化することとした。
 また、当該制御棒(22−23)に隣接する燃料集合体4体については、健全性に問題ないものの、念のため取り替えることとした。


(通商産業省によるINESの暫定評価尺度)
基準1 基準2 基準3 評価レベル


制御棒の概略図(タイプ2)
制御棒外観状況図(制御棒22−23の代表的な割れ・変形のみ)
制御棒22−23膨れ発生推定フロー図
制御棒の概略図(タイプ1)